第128回 2011/06/01 |
「入梅」 |
例年、梅雨入りは不明確で、気象庁も事後何日が入梅の日であったとすることが多いのですが、今年に限っては、実に明確でした。九州南部が5月23日、四国、中国、近畿が5月26日、そして東海、関東・甲信地方が5月27日でした。関東では、平均の入梅日が6月8日ですから10日以上、また昨年より2週間以上早かったことになります。まさに旧暦で使われた五月雨(さみだれ)が今年に限ってはそのまま新暦に適用されました。 6月は旧暦で水無月(みなつき)。特に今年に限っては、梅雨の早来のおかげで、田に水は満ち、関東地方中・南部では既に田植えも完了しています。ここで使われている無は、「な」の音読み上の当て字で所有格を表す助詞(後置詞)、現在の「の」にあたるとすれば意味は明らかです。水の月ということです。 東日本大震災に関する、復興の作業についてのさまざまな報道が先月も連日新聞、ラジオ、テレビで流されました。その中で、一つ貴重な提言がなされていますが、マスメディアの取り扱いはまだまだ極めて限定的です。それは、「日本一多くの木を植えた男」としてテレビにも取り上げられた、宮脇昭氏(横浜国立大学名誉教授)の提案する、「防災環境保全林(いのちの森)」構想です。1928年(昭和3年)生まれで、今年83歳になる宮脇氏は、震災後現地を訪れ、氏のこれまでの理念と実践を、この荒廃した東北地方沿岸部に生かすべきだと主張、別名「緑の長城計画」を訴えています。 宮脇氏の「いのちの森構想」とは、今回の被災地を対象に東北地方太平洋沿岸に300〜400Kmにわたって、幅30〜50mの緑地帯を設けるということ。その際、対象地を掘り下げ、震災で瓦礫と化した建材を粉砕し土壌と混合させた上で基礎土として使用(根に酸素が供給され水はけも適度となる)、中心部を盛り上げ植林すること(日照量の確保)。植樹方法は、宮脇方式と呼ばれ世界各国で実績を挙げている、混植・密植型植樹を行うこと(樹木に一定のストレスを与えることにより、成長速度を速める)。また樹木の選定に当たっては、その土地に歴史的に固有である植物類(潜在自然植生の再生)を使用すること、を条件づけています。 宮脇昭氏 宮脇氏の理念と経歴については、その著書「緑環境と植生学 鎮守の森を世界の森に」を私の「みだれ観照記」第39回(2005年9月)に紹介しておりますので、ご覧いただければ今回の主張が、決して思い付きでなく、氏の長い学研、実践活動の必然的な結果であることがお分かりいただけると思います。樹種選択の重要性は、関東大震災(1923年)でも、また最近の阪神・淡路大地震(1995年)でも、潜在自然植林に近い状態の場所へ避難した被災者が、幸いにも樹木のおかげで地震に伴う火災から命を救われた事実が証明していますし、氏も常にこの事例を講演や執筆に際して挙げられます。 次のURLは、「宮脇昭 緊急提言」の動画です。http://www.youtube.com/watch?v=M3BENrrhJJM この、一見容易そうに思える構想は、対象が複数県に渡るため、国政の積極的な介在と、地方行政に対する全面的な援助が必要です。理念として正しいことを、複数県に同時に実施すること、それこそ国政の主導性が生かされる政策です。大衆受けする派手な施策ではありませんが、長期的な視野に立つ時、必ずや十分評価される最良策となるに違いないように思えるのです。
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