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第129回 2011/07/05

「地上デジタル放送の開始」

 7月に入りました。既に先月となる6月24日、埼玉県熊谷市では最高気温39.8度を記録し、6月の国内市場最高の記録を更新しました。そして6月下旬、既に九州地方南部は梅雨明けしたと気象庁は発表しました。関東地方での梅雨明けは、今のところ今月18日ごろと予測されていますが、どうにもここ数日の真夏日を見ていますと、昨年同様の暑い夏が比較的早めに到来しそうな雰囲気を感じさせます。

 7月は、今回の東日本大震災で多大な被害を受けた東北3県を除き、一斉にテレビ送信がデジタルに一本化されます(7月24日)。NHKだけでなく、民放各局の番組でも、一大キャンペーンを繰り広げています。このデジタル送信一元化の決定とその動きのおかげで、家電メーカー各社は昨年から本年にかけて、地上デジタル受信可能受信機の生産を増産し、大手家電量販店は大いに売り上げを伸ばしたようです。

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 デジタル信号で送信するため、既にかなり余裕のなくなった電波周波数帯域が、大幅に圧縮されると、総務省は「地上デジタルテレビ放送のご案内」でデジタル化の理由を説明しています。しかし、電波法で厳しく管理されてきた放送電波の7月24日以降の「余裕分」は、誰がどのように使用するのか、または使用することができるのかは、一切説明されていません。

 音にしろ映像にしろ、私たちが眼にし、耳にしている信号は全てアナログ信号です。例えば昔のインターネットの接続で、ダイアルアップ方式を選んだ場合、接続直前に「シャー」という雑音がしましたが、それがデジタル信号の音そのものです。デジタル映像・音声信号(テレビ信号)は、アンテナで受信した後、アナログ信号に転換する必要があります。オーディオ業界では、デジタル音楽信号をアナログ転換する機器を、D/Aコンバーターと呼んでいますが、テレビ信号の場合には、デコーダーと呼ばれているようです。このデコーダーにより初めて、デジタル信号がアナログ信号に転換され、映像を見ることと音声を聞く事ができます。

 このデコーダーを介した、D/A転換作業のため、デジタルテレビ画面では、実際の送信側とはタイムラグが発生します。一番簡単な方法は、ラジオとテレビを双方つけ、時刻を確認することです。地デジ対応のテレビ画面は、約2秒ほど遅れます。ラジオで「正午です」というその瞬間には、テレビ画面は11時59分58秒であるわけです。また、例えば、サッカーの実況中継で、ラジオでは「ゴール」と大興奮してアナウンサーが叫んでいるその瞬間、テレビではゴールライン周辺の選手にボールが渡った状態だったりするのです。

 今回の東日本大震災以降、にわかに気象庁の発表する「地震・津波警報」が注目されています。テレビだけで、地震警報を得る場合、この2秒間は、ひょっとすると致命的な遅れとなるかもしれません。今後デコーダーの革新的な改良(D/A転換のチップは、オーディオ業界でもそうですが、日々大手半導体メーカーが技術的な優秀性を競っています)は、是非とも必要とされている課題です。

 また、デジタル信号自体の弱点は、半端性がないことです。アナログ放送では、受信環境が悪かったり、テレビそのものの不具合がある場合、映像や音声に乱れが発生しました。デジタル放送では、デコーダーの許容量以下の信号は転換されませんので、受信環境が悪ければ映りませんし、聞こえません。総務省は、むしろこの点を徹底的に条件整備する必要があります。使用する消費者の地デジ対応テレビの購入にはポイント(家電エコポイント)を付けても、地方行政体と受信環境を整備する協議が、必要とされる予算との関連でなされた報道を知りません。ユーザーとの相談室は、おそらくほとんど意味をなしません。

 総務省の広報では、地デジ対応テレビでは、これまでできなかった様々な利点が挙げられています。注意すべきことは、これまでできなかった全ての可能性(一画面で複数局の番組放送が見える、字幕放送が可能、ニュース報道や天気予報が常時可能、等々)は、通称リモコンでしか操作できないことです。昨今流行の薄型化とモダンなデザイン志向の強まりで、テレビ受信機自体に付けられた操作ボタンは、電源のオンオフ、音量コントロール、チャンネルの切り替え、入力モードの切り替え程度です。それすらも良く調べないとどこにあるのか分かりづらい。極端なことを言えば、リモコンがなければテレビを見ることができません。リモコンの重要性がかなり増して来ています。

 リモコンは、リモートコントロール送信機の略語で、テレビには受信装置(リモートセンサー)があります。このリモートセンサーの感度が悪くなることは、頻度は高くはないものの、起こりうることです。リモコンが効かなくなった場合、通常リモコンに内蔵されたバッテリーの消耗度を疑い、新しいものに交換しますが、テレビ本体側のセンサー感度の劣化も疑ってみる必要があります。この点は、家電メーカー各社が、もう少し明確に(単純に)ユーザーに伝える必要性を感じます。

 デジタル放送テレビでは、何より画像の鮮明度が飛躍的に向上したことは疑う余地がありません。しかし、全てパーフェクトという訳ではなく、今現在、受信以降の映像化する過程でのシステム上の弱点、受信環境整備の不完全さなどの問題を含んでいることを認識する必要があります。残念ながら音声は、私がこのオーディオ業界にいるせいかも知りませんが、少しも評価できません(もっとも全てのメーカーのテレビを聞いたわけではありませんので、例外的なケースがあるかもしれません)。音声対応のD/A転換部(コンバーター)、増幅部(アンプ)、出力部[スピーカー)にそれほどの費用をかけていないことが、これまで見た限りでは明らかです。

 アナログ放送の送信を強制的に止めるのですから、テレビ番組を見る上での様々な地デジテレビの利点を宣伝する以上に、デジタル放送の経済的なメリットを行政は説明すべきです。少なくとも、放送電波周波数のデジタル化によってできた余裕分を、どのように使用するのかは、完全デジタル化開始以降でも遅くはありません、説明すべきです。アナログ放送送信をやめるメリットを是非聞きたいものです。

 熱い夏が予感できます。「節電キャンペーン」のなかで、何とか工夫され、壮健に7月を乗り切っていきましょう。

 

 

 




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