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第116回 2010/06/01

「スイングジャーナル休刊とiPad」

 今年も今月で半年を経過することになる6月、旧暦で言う水無月の始まりです。昨月の下旬は関東地方ではどんよりと曇った日が続き、とりわけ5月29,30日と寒さがぶり返したかのような天候でした。衣替えにはちょっと躊躇する6月の始まりです。今年の夏至は例年にたがわず6月21日。それまでは、日一日と夜明けの時刻が早くなり、日没が遅くなっていきます。いうなれば6月は、北半球の日本では一年の中で理論的には最も日照時間が長い月なのですが、丁度雨季に重なるためあまり意識されることは少ないようです。

 さて、5月に取引先様の要請で始めたTwitterでもご紹介しましたが、かの「スイングジャーナル」誌が、今月19日発売の7月号で休刊することになりました(5月17日産経ニュース:msn)。昭和22年(1947年)創刊のスイングジャーナル誌は、戦後日本のジャズ音楽隆盛の表現であったと同時にその牽引車でもありました。「戦後日本のジャズ文化」を著した、マイク・モラスキー氏もその著書の中で、スイングジャーナルの記事を大いに参照していました。いわば、戦後日本のジャズ史の生きた博物館でもあったといえます。

 近年は、ジャズの演奏者や功労者に対してだけでなく、再生音楽機器の業界に対しても、「スイングジャズ・コンポーネント・アワード」を表彰、当社もその栄誉に何度か浴したこともありました。産経ニュースによりますと、「広告収入の落ち込みが主な原因」と編集部が伝えているとのことです。その大きな背景には、印刷出版業界全体の長期低落傾向があるように思われます。

SJ 一般の月刊誌は、週刊誌とともに1997年をピークにその発行部数は毎年前年割れを継続しています。また、音楽CDの販売数は、2000年をピークとし、減少をたどり、一昨年(2008年)の統計で前年度対比マイナス13%(数量)と落ち込んでいます。他方で、インターネットやモバイルによる有料音楽配信は右肩上がりの伸長を示しています。

 こうした傾向を、より安く、より手軽(簡単)に音楽ソースを入手できる音源への嗜好の変化と読むこともできます。多くの事象評論家はそのように分析します。しかし、音楽愛好者の志向性がより幅広くなり、売れているもしくは音楽業界が売りたいCDをもっぱら店頭に置く従来の販売方法に対する、購買者側からの反論でもあるように思われます。自分の好きなCDを店頭で時間をかけて探す手間の代わりに、自由に時間をかけて束縛なく選択できる方法を選んできたのではないでしょうか。単なる利便性や経済性だけでなく、自分の購買嗜好性を発揮できる場所を得たともいえるでしょう。

 雑誌、週刊誌についても、同じようなことがいえるかも知れません。日々の最低限の世界的、国内的な大事件はTVだけでなく、インターネットで瞬時に読み取ることができます。情報伝達だけから見ますと、月刊誌よりも週刊誌のほうが早い、更に早いのは新聞で、一番早いのがインターネットです。情報伝達速度では、インターネットにかなう媒体はありません。ましてや、一般情報の入手だけであれば無料です。その側面からは、情報伝達の媒体として、新聞を含むほとんどすべての印刷物の発行が低落傾向に陥ったのは無理ないことかもしれません。

 ネット、モバイル配信による音楽ソースの入手へと、大きく購買者の動向が変化していけば、当然再生音楽機器業界にも影響を与えます。まして、TVの2011年にむけた全面的な地上デジタル放送化への流れの中で、電気機器の需要の第一はデジタル対応のTVが群を抜いているのですから。

 スイングジャーナル誌の休刊の背景にはこうした要因が挙げられるでしょう。ジャズの発祥の地、米国でも既にジャズ専門誌がなくなって久しいといわれています。同社が担ってきたジャズ文化の歴史は、単に戦後日本のジャズ文化史を刻むものだけでなく、世界のジャズ音楽を担ってきたものでもあるといえます。ジャズ音楽がなくなったわけでも、ジャズ愛好家が少なくなったわけでもありません。最先端のジャズ音楽界の状況を、印刷物で知ろうとする購買層が減少したことと、それを支えるべき私ども再生音楽機器業界が弱体化しつつあり、また同時にバックアップすべき音楽ソフト業界も同様の状態にあることから、この残念な今日の結果が現れていると思われます。

WS 新しいアプローチの方法で、まったく別の形をとった「スイングジャーナル」が再生されることを祈っております。きしくも、5月末、画像・通信媒体のiPadが大々的に発売されました。知人によれば、通常の販売店経由の注文申し込みも拒否されたそうです。それほどに人気を博している、また近い将来、より普及するであろうiPadです。15年以上前にソフト業界の発展に、産業の命運をかけたアメリカの意思が、ここに現れてきているようです。Googleに、Microsoftに、そしてAppleに、モバイルとインターネットの主導権を完全に奪われているのが現状です。iPadの成功は、それがどれほど長続きするかは不明ですが、単にApple社の企画、開発能力の優秀性を示すものに留まらず、米国の新しい産業創造の強い意思の表れに他ならないと思われます。

 軍需産業を別にすれば、自動車で、航空機で、電気機器産業で、戦後の世界をリードしてきたのが米国です。自動車と、電気機器産業は、その後、日本の後塵をはいしました。航空機はヨーロッパの存在が無視できなくなっています。その過程の中で、米国の力強さが、今や通信ソフトの開発とその応用となって表れてきています。一旦世界を制したかに見えた日本の電気機器産業も、韓国の急追に遭遇しています。このまま日本の英知が次第に枯渇するとは思いたくない昨今です。





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