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第114回 2010/04/01

「開花した桜」

 昨月3月22日気象庁は、東京での桜の開花宣言を発表しました。ところがその後、真冬を思わせる寒波の襲来で、どうも満開までには未だ少しの日数がかかりそうです。学校、政府関係機関などの関係者には新年度となる4月になりました。関東地方では咲きかけた桜が戸惑っているような気候の不安定な状況下です。皆様どのように新年度をお迎えでしょうか。

 欧州の小国、モナコがワシントン条約締約国会議に提案した黒マグロ(大西洋クロマグロ)の取引禁止提案は、3月に入り、国内のニュースメディアをにぎわして来ました。魚,寿司好きの日本人の口に、マグロが入らなくなるという危機感を煽るものでした。カタールで、同委員会がモナコ提案を否決(3月18日)するや、日本のメディアは、日本政府機関(水産庁)の「勝利」としてこれを大々的に取り上げていました。寿司屋からマグロがなくなる危険性は去ったかのようです。

 このクロマグロに関する報道には、最初から最後の「勝利」まで、どうも納得のいかないことが多かったように思われます。まず、クロマグロは値段としても高く、決して大衆魚ではありません。また、自然の生物がヒトの食料資源とされる場合、通常その特定資源の枯渇を防ぐ様々な工夫をしてきたのがここ100年来の、とりわけここ50年来のヒトの世界の趨勢でした。畜産や、養魚業の技術的な改善と拡大の歴史は、そうした流れの主要な一部でもあったはずです。過去、一定の生物を食料資源としてきた個々の民族の歴史を「食文化」として昇華させ、今後の食料資源としての安定性に口を閉ざすやり方は、世界の流れとは反しています。

クジラ ここ数年、クジラに始まり、イルカ、そして今回のマグロ問題は、常に環境保護の立場から日本への外圧となってきています。それに対して日本人の「食文化」から反論するかのような姿勢は説得性を欠いています。食料資源としての現状と将来性を、正確な数字と政策的な展望を示すことによって反論すべきことなのです。その際の日本の問題は、調査捕鯨と称して、一定のクジラを捕獲し、流通にまわしながら、クジラの生存条件の調査結果を統計として発表していないことです(捕獲数量は公表していますが。一定の生物の捕獲が乱獲と非難されない科学的な根拠を示すべきです)。

 環境保護団体は、食料資源としての生物、とりわけ海洋生物の捕獲を、常に乱獲と位置付け、捕獲の継続をその生物の種としての絶滅の危機につながるという「平衡理論」を展開します。しかしその論法は、魚業資源を研究する科学者の数十年にわたる統計データーにより、既に「レジーム・シフト」論により破産していることは明らかです。川崎健氏の「イワシと気候変動」(岩波新書)は、最も簡明な指針となります。端的にいえば、大西洋クロマグロを食料資源として利用する日本市場は、「レジーム・シフト」の観点(捕獲対象魚の増減は、ヒトの捕獲量から単純に算出されるものではなく、気候変動、環境変動にも多くの要因を持つ。 また、バイオマスの低い時期の捕獲は、乱獲と呼ばれるべきであり、捕獲を控えるべき。)から、現在までとこれからの漁獲量が種としてのクロマグロを絶滅には導かないことを論証すべきでした。それを示すデーターを提示できないのであれば、ヒトの食料資源を野生生物に求めることを、計画的に管理しようとしてきたこれまでの歴史を踏まえて、一時的にかの地での捕獲を止め、科学的な根拠の蓄積に勤めるべきだったように思われるのです。

 既に太平洋のマグロ延縄漁業にたいして、アメリカの環境保護団体は1990年代の後半、過大なまでの批判の対象としてきました。そのような圧力は、その後、とりわけ今回の大西洋クロマグロとミナミマグロに向けられてきていました。少なくとも関係省庁は、水産資源の実態を把握する十分な時間(10年間)があったといえます。環境保護に名を借りたヒステリーには、冷静に統計数字を挙げて反論するしかありません。海産物という自然資源を世界中で最もよく利用してきた日本であればこそ、感情論ではなく、論理性をもって対応すべきでした。

 今年に入ってにわかに取り上げられたクロマグロ問題は、実は10年前からそれに対応する準備をすべきだというシグナルを受け取っていたのです。突然降って沸いたかのような報道は、当該政府機関の怠慢をカバーするものとしか感じられないのです。また、「勝利」と評価した今回の会議での提案否決という結末ですが、問題は解決していません。今回の「勝利」は、クロマグロを販売する利益国の協力を得たものですが、資源問題に直接答えたものではないのです。ひょっとすると、クロマグロのバイオマスはきわめて低く、捕獲を控えるべきレベルであるかもしれないのです。

 花冷えともいえる、関東地方の今日このごろです。日本海側と東北・北海道地域では未だ積雪がそのまま残っていて、時として降雪予報も出され、とても春とはいえない状況のようです。地域により多様な気象条件ですが、新しい年度に入ったことは間違いありません。新しい気持ちで、変化の多い、移り気なこの季節をお過ごし下さい。

 

 




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