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第124回 2011/2/04

「鳥インフルエンザは天災なのだろうか」

 新年が明けて一ヶ月が経過しました。1月は、典型的な冬の気圧配置におかれた結果、関東地方は連日、日中の最高気温が10℃を越さず、よく晴れながらも寒く、乾燥した日々が続いています。東京での連続乾燥注意報継続日数が30日を越えて、いまなお継続中です。他方、日本海側の地方と山間部は、例年にもました豪雪に見舞われ、雪による様々な被害が報道されています。豪雪地帯の積雪量は、部分的にこれまでの記録を更新さえしています。皆様お住まいの地域では、いかがでしょうか。雪害による災禍に見舞われた皆様には、心からお見舞い申し上げます。

 さて、新年の一ヶ月間、連日報道されたものの一つがトリインフルエンザ禍でした。このホームページのコラム欄で乏しい知識ながらも野鳥について述べさせていただいておりますし、今なお野鳥観察を趣味として持っておりますものとして、この問題を取り上げてみたいと思います。

 新聞や、TV報道によりますと、野生の鳥(渡り鳥)により鳥インフルエンザが持ち込まれ、ニワトリに感染、行政の殺傷処分に養鶏業が多大な被害を被っているという論調が基本になっています。昨年10月に北海道稚内大沼でカモの糞から鳥インフルエンザが検出されたのを皮切りに、12月には富山県のコブハクチョウ、鹿児島県のナベヅルから、さらに今年に入り、北海道浜中町でオオハクチョウの死骸からも検出されたと報道されました。

 他方で、養鶏業では、実質今年に入りそれも1月20日過ぎに矢継ぎ早に被害が報道されています。21日に宮崎市で、23日には宮崎県新富町、25日には鹿児島県出水市、翌26日には愛知県豊橋市、28日には宮崎県都濃市、29日同県川南市と延岡市、30日には同じく高鍋町での養鶏場での鳥インフルエンザ発生が報道されています。とりわけ、宮崎県の被害は甚大で、県内の複数の市町で殺傷された養鶏は数十万羽に及んでいます。

niwatori

 鳥類は、絶命した恐竜から進化した動物であることは今日ほぼ定説(異論はあるにしても)となっています。今日世界に生息する鳥類は約1万種弱、およそ700万年前に現在の形状を獲得して進化してきたとされています。その中で、病原性ウイルスの宿主となっているのは、水禽類のカモの仲間だとされています。カモを宿主とするのはA型のインフルエンザ。このインフルエンザウイルスは、鳥類の長い歴史の中で宿主に発症することなく共存してきたといわれています。従来の系統発生学的研究では、水鳥の体内でのインフルエンザフイルスの進化は停滞していると理解されてきました。ところが、1997年に香港で養鶏場のトリが急に死に始め壊滅的状況に陥ります。ここでこの高病原性のウイルスが1959年に初めて疫学的に分離されたH5N1型であることが判明します。

 ところが2001年、再び香港を襲った鳥インフルエンザは、ニワトリだけでなく、水禽類であるマガモ、公園のフラミンゴ、ハクチョウまでにおよびます。ここに至って、1997年のH5N1インフルエンザが急速に進化を遂げ、毒性を強化していることが分かって来ました。また精密な解析の結果、その遺伝子の多様性が多様な宿主を選ばさせること、従ってこのウイルスはカモからニワトリへ、そしてまたニワトリからカモへと移って進化を遂げていることが証拠を挙げて2003年に公表されます。この経過は、2006年に国内でも翻訳出版された「感染爆発」(マイク・デイヴィス著)に詳細されています。ここに至って、猛毒性を獲得したH5N1は、沈黙を破り、宿主をも死に至らしめるモンスターに変身したのです。 本年の国内のデーターでは、ニワトリ以外にも、鳥インフルエンザで、オオハクチョウとナベヅルが死んだことが報じられています。それはまぎれもなく進化したH5N1のもたらしたものといえます。

 少なくとの数百万年の歴史を持つ鳥類、数十万年の歴史を持つ人類。その長い歴史の中で僅かこの100年未満の間に発現し、10年前に猛威を奮ったインフルエンザが、このわずかたったの数年間に更に進化を遂げています。ここには、野鶏を家禽化してきた人類が、長く手工業的に行ってきた牧歌的な養鶏行為を、わずかこの数十年間に大規模化し、工業化してきた歴史があります。とりわけこの10年間の東南アジアにおけるすさまじいまでの鶏卵と鶏肉の増産体制が大きく関わっているとみなさざるを得ません。21世紀に入って、養鶏業はより寡占化と大規模化に拍車がかけられています。水禽類に属する鳥類がもともともっていたインフルエンザが、20世紀の最後に猛毒性を獲得し、更に21世紀に入り毒性を強めている過程が、養鶏産業の成長と軌を一にしているのです。

 鶏肉は豚肉や牛肉と異なり宗教的な制約を受けません。それ故に安価な鶏肉の供給は、人口の増加を支えるものでもあります。より大規模化し、人口の増加を支える行為はそれが利潤の追求とともに行われたとしても非難されるべきではないのかもしれません。しかし完全に工業化された養鶏業は、鶏の野性性を全く奪い、抵抗力を奪い、純培養的な環境の中で極度に病原菌の急速な繁殖を培う基礎ともなります。また、大規模養鶏業の寡占化が進む、タイ、ベトナム、中国では、他方で生きたままの鶏を生産地から消費地に運搬する、旧体然とした流通形態が、最新鋭の「養鶏工場」と混在しているという、実に危険に満ちた状態です。

 鳥インフルエンザの抜本的な解決は、乱暴な言い方をすれば、養鶏産業の在り方を問い直さなければ道が見えてこないように思われます。既に発現した状況の解決がまず大切であることは論を待ちませんが、本質に遡らなければ将来の解決にはならないように思われるのです。鳥インフルエンザはその意味で人災であるとしか言いようがありません。

 

 

 

 

 

 

 




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