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第90回 2008/04/01
政治と経済

 東京では3月20日過ぎには桜の開花宣言、数日を経ずしてその満開宣言がだされました。その直後、花冷えともいえるように冷たい雨が桜を冷やし、今日4月に入りました。皆様のお住まいの地域ではもう桜が咲き始めましたでしょうか。 今後、桜の開花前線も、次第に北上していくことと思われます。

 さて、先の3月22日、台湾の総選挙の結果、国民党の馬英九氏が政権の座を射止めました。過去8年間の民進党政権からの転換です。新聞の政治欄ですと「政権奪還」とでも表現するのでしょう。少数派の、所謂外省人の、絶対多数を占める台湾人(内省人)への勝利とはとても思えません。また、対中国政策をめぐる明確に政治路線が異なる一方の政策的な方針の勝利とも思えません。馬氏の勝利の基底には、この数年間の経済的な停滞に対する抜け道を模索しようとする台湾の人々の切なる希求が横たわっているように思われます。

 同じことがお隣、韓国でもいえるようです。台湾の総統(大統領)選挙のほぼ一ヶ月前の2月25日、米国(それと日本)からの相対的な位置を確保し、「人為的な景気浮揚策はとらない」という独自路線を強いてきた盧武鉉大統領に代わり、韓国のテレビドラマ「野望の歳月」のモデルであった経済界出身の李明博氏が大統領の椅子に座りました。これまた明らかに、「漢江の奇跡」の再来を望む、または「経済的な成長への回帰」を願う韓国の人々の選択だったように思われます。

 韓国、台湾と、わが国と隣接する国の人々は、現状の経済上の逼塞感からの脱却を新しい政権に期待しています。さてわが国では、本日をもって、「ガソリン税などの暫定税率維持を含む税制関連法案」が成立しないことによって、ガソリン税などの暫定税率は失効しました。つまり4月1日から税率不確定となるため、事実上ガソリン税は、一時的にしろなくならざるを得なくなります。さてこのガソリン代金の大幅値下げが経済的な活性化につながるのでしょうか。

 ガソリン税は、揮発油税と地方道路税の二つにまたがるものです。 今年3月31日までのガソリン税は、揮発油税として1リットル当たり48.6円、地方道路税として1リットル当たり5.2円、合計1リットル当たり53.8円が徴収されてきました(このうちの暫定税率分は、25.1円)。昨今の地方自治体の長(県知事など)が、ガソリン税の暫定税率の廃止、若しくは引き下げに反対しているのは、地方道路税がこの中に包含されているために他なりません。

 新聞でも報道されているように、4月1日現在失効した暫定税率は、当月内の29日以降の衆議院で再議決されるとすれば、その段階で元通りとなります。おそらく一ヶ月以内のガソリン料金の乱高下が国家経済の将来を占う指標とはならないでしょう。日本国政府の与野党間の対立と解決の目処がつかなかった一ヶ月が、世界中に、明確な方針を出せない日本の混乱として誰の目にも明らかになるでしょう。

 問題は、暫定としたまま1993年以降、15年間も公的に議論がなされなかったことです。政府与党が圧倒的な多数を占める衆議院でも、ガソリン税に地方道路税を含むことが適切であるのかどうか、税率そのものが適切であるのかどうかの議論は、今月末なされることはなく間違いなく先送りされるでしょう。

 暫定税率の経時的な失効を前に、福田首相は報道機関に、道路税の一般財源化への組み込みの方針を提示しました。果たしてどれだけの政府内議論がなされた発言であるかははなはだ疑問ですが、もし一般財源に組み込むのであれば、ガソリン税に地方道路税を含めることの適正がいっそう不明確なものになってくるのではないかと思われます。

 何はともあれ、満開の桜の下、ガソリン暫定税率は一時的ではあれ散っていきます。他方で、この3月、1米ドルは100円を割る急速な円高基調に入り、その水準で現在も推移しています。残念ながら、日本の経済的な基盤に対する高い評価というよりも、低下し続けているように見えるアメリカ経済に対する評価の下落といった側面しか感じることのできない為替相場の激変です。株価の下落には敏感な大手新聞各社も、数週間続いている円高、ドル安についてはあまり主だった記事とはしていないかのように見えます。しかし、円の対ドル相場の相対的な値上がりは、一時的なガソリン代の値下げよりも、国家経済にとってはより重要な要素であることは間違いなのです。政府方針としての対ドル政策などはこの間聞いたこともありません。

 韓国であれ、台湾であれ、そして日本であれ、経済のすべてを政府が取り仕切ることは、その基本体制からしても不可能なことです。しかし政策として、経済的な事象のうち、何が重要であるのかを決定するのは政治です。経済的な成長を、政治的な政策の成功が原因であると自賛する政治家は多いのですが、経済的な停滞を政策上の失敗の結果と自認する政治の当事者にはお目にかかったことがありません。ゆれ続けているわが国の政治ですが、経済的にはもっと深刻な予兆が数々現れていることを危惧するのは、私どものような小企業の人間だけではないように思う昨今です。

 月末には、桜の薄桃色に変わり、木や草の緑が、野に山に目立ち始めることでしょう。天候が不順となりがちな春です。とはいえまた多くの新入社員や、新入生のあふれる春です。希望と不安は常につきものです。今月もご健勝にお過ごしください。

 




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