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第32回 2003/6/02

水無月6月となります。日韓共同開催のFIFA・2002で日韓両国が世界中のサッカーファンの注目を集めてから、まだわずか1年しか経っていないというのに、スポーツ紙上でははるか前史の出来事のように取り扱っています。日常の出来事の密度の濃さが、時間感覚を狂わせる格好の事例かもしれません。

水無月とは、広辞苑によれば、「水の月」、つまり水を田に注ぎいれる月と説明されています。関東地方の大部分の田圃も、苗代から植えられた苗が風にそよいでいます。そして、この6月は、環境省により平成3年度(1991年)より「環境月間」に指定されています。(6月5日が環境の日です)今回は、環境問題について、触れてみたいと思います。

現在多くの企業,若しくは行政組織が、環境に関わる国際規格、ISO14001を取得し、それを維持しようとしていることは、時々新聞報道や企業宣伝などで目にするところです。ISO14001とは、国際標準化機構(ISO)が1996年に定めた、環境マネジメントシステム(EMS)をどのように構築すればよいかを定めた仕様書といえます。当社が以前所属していました、三洋電機グループもほぼすべての所属組織が、このISO14001を取得していると理解しています。

さて、こうした団体レベルにおける環境問題への取り組みを統括するのが、わが国では環境省に他なりませんが、その環境省の今年の環境月間へのテーマが、「はじめています。地球に優しい新生活」なのです。一般企業が、環境問題を取り上げ、宣伝でそのことに触れるとき、よく使われる言葉が、「地球に優しい...」です。環境省自ら使っているのですから、民間企業がそれに倣うのは当然のことかもしれません。しかし、ヒトは、果たして本当に地球に優しくできるのでしょうか。

地球は、およそ46億年前(大雑把に40億年前と語られることもありますが)に太陽系の一惑星として誕生したといわれています。その当時は灼熱の火の玉であったと今日憶測される原始地球は、長い冷却の期間を経、地質学的には先カンブリア時代と呼ばれる今から35億年前に、生命を持つ有機体が誕生し、更に20〜25億年前に多細胞生物の時代へと進化を遂げ、新たな「生物圏」の時代(松井孝典教授・「1万年目の『人間見』」)に入ります。

だが一連のこの過程は、平板な軌跡を一直線に進んできたものではなく、地球環境の激変によってもたらされたものであることを多くの識者は忘れがちです。詳しい説明は、地球物理学者にお任せするにしても、窒素と酸素と二酸化炭素によってそのほとんどを構成されている今日の大気は、原始地球の誕生時にはまったく異なった構成をしていたのです。今日普通だと思われているこの空気の構成は、地球環境の激変の結果もたらされたものであることを前提に、環境は考える必要があります。地球環境とは、単に変化するのではなく、それに先行する歴史を拒否するほどに激変してきたのですから。

だがこうした尺度で歴史を見るとき、今日に通ずる人間社会の誕生が、それ自体として他の生物圏の存在を脅かし(事実、何百、何千の生物種を人類は絶滅させてきた)、環境を変化させていること自体は、地球環境のたどってきた歴史から見るとき、決してとりわけ際立ったことではありません。そして18世紀、産業革命以降の人間社会の急速な膨張とエネルギーの新しい開発と大規模な消費活動は、地球環境史において、原始地球におけるゴミであった大陸性物質、単細胞有機生命体の時代のゴミであった酸素と同じように、人間の存在そのものをゴミとしているかのようです。

翻って、「地球環境を守る」と語るとき、どの時点での地球環境に押しとどめようとしているのか、と聞いてみたくなります。人類史がそうである以上に、地球環境史も後戻りはできないのです。46億年を経た地球は、残念ながら永遠ではなく、一説によればあと10億年の寿命とも言われています。ヒトがいなければ地球ではないと語ることはできても、事実に反します。

地球は、その歴史の半分以上を、多細胞生命体が存在しないまま過ごしてきたし、地球最後の数億年は、その誕生時の数億年と同様にいかなる生命体の存在も拒否するでありましょう。それゆえにこそ現在の、生命活動を営むことのできる奇跡的ともいえる環境を意図的に破壊する活動は唾棄すべきことではありましょうが、それを地球環境の保護と理解することは、あまりにも楽天的過ぎないでしょうか。本件については、いずれ「観照記」にて、『生命40億年全史』(リチャード・フォーティ著)の書評でさらに述べていきたいと思います。