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第144回 2012/10/24

「ハチクマ渡り公開プロジェクト」

 今朝の天気情報で、気象解説者が「やっと気象状況がカレンダーに追い付いてきました」と述べ、秋の深まりが全国的に例年並になってきたことを伝えていました。自然の生き物の変化をみるとこの夏以降、だいたい2週間ほど例年よりも遅いという感じを持っていましたが、これからは急速に冬に向かってかけ足となるのかもしれません。

 さて昨夜、テレビの教育番組で、鷹の渡りについて、学識者が比較的平易な言葉で分かりやすく解説しているものを目にしました(だいぶ以前のものの再放送かもしれません)。例年ですと、国内で繁殖したタカは、9月中旬から下旬にかけて一斉に南方に飛び去り、10月第1週の前半でその渡りも終わりを告げます。今年は、幾分遅めにタカの渡りが開始され、観測地での最終観測も10月10日前後だったようです。タカなどの大型猛禽類に限らず、小さいオオルリやキビタキなどを含めた野鳥の多くは、子供を産み育てる繁殖地と、非繁殖期を過ごす地域(多くの場合それは越冬地と呼ばれる)を移動します。移動距離の長さで、渡りと呼ばれたり、漂行と呼ばれたりしますが、その明確な区分はないように思われます。山から里へと移動する場合や、たとえば北海道から関東地方へ移動する野鳥は、漂鳥と呼ばれ、渡り鳥とは呼ばれません。多くのカモの仲間、ハクチョウ、ガンの仲間などは、少なくとも1000キロを超す長距離を飛び国内にやって(戻って)来ます。この移動は、渡りであり漂行とは呼ばれません。ただその明確な境界線はないよいうです。

 野鳥類がなぜ渡りをするのかには諸説あり、決定的な論拠を知りませんが、餌の存在が大きな要素となっていることは間違いないようです。雛を産み育てるためには、かなり良質で、かつ豊富な餌が必要です。通常植物食を専らとするような鳥類でさえも、この時期には動物性のタンパク源が必要なのです。かつて渡りをしていたヒヨドリの多くが今は留鳥化しているのは、冬場にも餌が豊富に確保できるようになったためだといわれてもるのです。

 他方で、数千キロ、時として一万キロを超す渡りが、郵便配達的な正確さで出発地と、到着地を結んでいることは、人家の軒先に営巣し、育雛するツバメで広く知られているところです。ところが、精確な観測が進めば進むほど、多くの観察された野鳥の渡りが、出発点と到着点をピンポイントで結んでいることが次第に分かって来ています。そしてさらに、多くの場合渡りの中継点も、ほぼ同一だということ、つまり同一の軌跡をたどっていることも、分かって来ました。上であげた昨夜の番組も、サシバとハチクマの説明をしていました。

sashiba1 sashiba2

 繁殖のため日本の里山に春先にやって来る中型のタカ、サシバは、国内中部以北で繁殖し、沖縄諸島や台湾近辺で越冬します(上左は印旛沼付近で、子育てのためトカゲを加えたサシバ。右は渡良瀬遊水地で見かけた若いサシバです)。繁殖地を出発点として飛び立ったサシバは、越冬のため南下し、確かその番組では石垣島にたどりつきます。翌年春に入る前、石垣島を出発したこのサシバは、南下したルートをほぼ正確にたどり、出発点にたどりついたことが示されました。小型のツバメだけでなく、中型のタカ、サシバもまた精確に元の場所に行ったコースを逆行して戻ってきたのです。コースの確定には、太陽や月の位置が影響を与えていることは、これまでも指摘されています。渡りのコースがほぼ同一であるということは、春の渡りで見た野鳥は、ほぼ同じ場所で秋見ることができることを意味しますし、それが希少種であれば、かなりの確率で同一個体であるということもできるのです。

  hachikuma  

 他方で、大型のタカ、ハチクマ(上は群馬県沼田市の山間部を飛翔するハチクマです)は、サシバをはるかに上回る距離を渡る長距離飛行者です。確か2004年の飛行データーでは、一万キロを超えた越冬地への飛行距離でした。上高地を出発したハチクマは、本州を南下し、四国から九州を経て、中国へと渡ります。更に中国東海岸沿いに南下し、ベトナムを横切りラオス、ミャンマーを経てマレーシアへ。インドシナ半島を経てマレー半島先端にまで飛翔しました。しかし、その帰路は、サシバとは異なるものでした。マレー半島先端から出発したこの個体は、ミャンマーまではほぼ同じコースをたどったものの、そこから一気に中国大陸中央部を北上して縦断し、何と沿海州までたどり着き、そこから急きょ反転して南下。朝鮮半島を縦断して北九州へと入り、四国に至ります。そこからのコースは南下したものとほぼ同じで、最終的に出発点にたどりついたのです。往路よりもおそらく3,4割長い距離を飛行したことになります。このことは、ハチクマに関しては、旅の目的地は最初から明確であること。また、コースを何らかの理由で大幅に外れても、目的地へと向かう軌道修正できる、コース修正用コンパスを体内に備えていることが明白なようです。これは、地磁気を察知す機能をどこかの器官に備えているものと憶測されています。

 タカの渡りの観測で記録されていることは、渡りが頻繁に行われる日と、ほとんど飛んでいない日では特に風の向きと強さがかなりの影響力を持っていることが示されています。とりわけ大型のタカ、サシバでは、風の向きが非常に大きな影響を与え、このコース変更となったようです。

 こうした渡り鳥のコースの精確な観察は、軽量かつ高性能発振機の開発と、信号を受信する人工衛星の利用が許されること、さらには人工衛星のキャッチしたデーターを処理する衛星追跡処理システムが不可欠です。そして本年、以前からこうしたシステムですでに観測プロジェクトを幾度も立ち上げた、樋口広芳氏(慶應義塾大学特任教授・東京大学名誉教授)をプロジェクトリーダーとする大がかりなハチクマ渡り公開プロジェクトがスタートしているのです。このプロジェクトは、国内だけでなく東南アジアの野鳥研究者、バーダーの注目を集め、今まさに現在進行形なのです。その意義については、次回このプロジェクトの成果を含めて見て行きたいと思います。

 

 




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