White
White CEC LOGO HOME 製品 テクノロジー サービス 会社概要 コラム メール English White
White
タイトル

118
118

第143回 2012/9/5

「改訂レッドリスト」

 8月28日、環境省は第4次レッドリストを公表しました。レッドリストとは、「日本の絶滅のおそれのある野生生物」種のリストのことで、レッドデーターブック(RDB)とも呼ばれ、平成3年(1991年)に初めて発表されました。1995年にその改訂がなされた際に、「改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物・レッド・データー・ブック」とタイトル化され、今回がその4回目の改訂となりました。143

 今回、NHKをはじめとした国内の大手メディアに注目されたのは、ニホンカワウソの「絶滅」宣言でした。レッドリストは、絶滅の危険性の高さをランク分けしており、最悪は「絶滅(EX)」で、以下、「野生絶滅(EW)」、「絶滅危機T類(CR+EN)」、「絶滅危機U類(VU)」と続き、その下に「準絶滅危惧(NT)」さらに、「情報不足(DD)」と続きます。今回絶滅と判断されたニホンカワウソは、北海道亜種と本州以南亜種の2種類で、それ以前のランクは絶滅危惧T類A(CR)指定でした。他に6種類、合計8種類の生物種が絶滅したと今回判断されています。

 絶滅されたと理解された植物種が、全く別の場所での生息が確認された例はありますが、動物種の場合これまではそのような前例はなく、また今回のニホンカワウソは、昭和の時代に生息が確認されていながらその絶滅が宣告された最初の哺乳類ともなりました。毛皮用に乱獲されて減少し、最終的には生息環境の改善のないまま絶滅に至ったのですが、端的にヒトが絶滅においやったとしか説明のしようがありません。今回の見直しで419種が追加され、合計3430種がリストされています。前回のリストとの対比もまとめられています。

 NHKの報道で意見を求められた東京農業大学・安藤元一教授は、「あと数年で絶滅するという状態の時に対策をとっても手遅れになる。生物の保全活動は難しく、長期間にわたって対策をとることが必要だ」とする一方で、「種によって社会の関心度が違う」ことも付けたしています。ほとんどの場合ヒトの存在が野生生物を絶滅の危機に追いやるのですが、その救済もまたヒトの好みによって左右されるのです。

 いったんは野生生物として国内では絶滅したトキは、佐渡ヶ島の農家の人々の犠牲的な協力と、特別飼養者の献身的な努力と、そしてなによりも膨大な国家予算の支援で、新潟県の空に再び朱鷺色の妙を見せることができるようになりました。トキは今回のレッドリストではEWランク(野生絶滅)継続です。トキ再生の成功は大変喜ばしいことであり、貴重な経験ともなりました。でも他方で、冷静にトキ再生にかかった費用で他の絶滅危惧種をどれほど救済できたのかを合理的に計算して見ることも必要かもしれません。生物種に対する、偏見のない学校教育が絶滅種救済にあたって重要なカギとなるでしょう。

 環境庁は今回の改訂にあたって、注目されるべきポイントを別添資料として付けています。今回新たに準絶滅危惧種(NT)に指定された種のうち、エゾナキウサギ、ニホンイシガメ、トノサマガエルは十分注目に値します。レッドリストの目的は、絶滅の危機を訴えることを通して、国民的に種の保全を図ることに他なりません。ニホンカワウソの絶滅宣言は、種の保全努力の敗北宣言でもあります。今は観察が十分可能なこうした準絶滅危惧種こそ、本格的な保護の対象とすべきです。この三種は国の天然記念物に指定されるべきで、そうすることによってその存在価値を広く人々に訴えることができるでしょう。

 ところが、同じ目的を持つはずの二つはまったく別の官庁が管轄しています。絶滅危惧種の指定は環境省(大臣)が、天然記念物及び特別天然記念物の選定は文部科学省(大臣)が行うことになっているのです。歴史的には、天然記念物の方がはるかに長い歴史を持ちます。人々の見識の中では既に常識化しているといってもよいでしょう。たとえばトキは国の特別天然記念物であることは、だれしも知っていることです。この際、環境庁の指定する準絶滅危惧種を天然記念物としても指定する決断をすべき時が来ていると思われるのです。もしくは、機能の重複した自然生物保護にかかわるすべての管轄をどちらかの省庁にまとめる行政改革が先行すべきかもしれません。残念ながら、重複する機能の一元化を含んだ改革はなされないまま、現政府の「マニュフェスト」はどこかへ霧散したかのようです。

 準絶滅危惧種指定に至る過程でさえ、生物種の生息する環境の利害関係により、かなりの紆余曲折を経たであろうことが憶測されるのです。せっかく指定された危惧種を絶滅種へと追いやらないためには、思い切った政治的、法的な決断と、生物種に対する偏向のない学校教育が重要だと思われます。

 

 

 




118
118