第140回 2012/6/13 |
「団塊の世代と2012年」 |
一年の半分となる6月となり、関東地方でも9日から梅雨入りが気象庁により発表されました。北海道、東北地方の一部を除く全国的な梅雨の季節となりました。5月初旬には、強い寒気団の到来で、これまで記録されたこともないような大規模な竜巻の被害が報じられ、また下旬には、関東地方に集中豪雨的な雨に雹が混在するといった、異常な気象現象が続きました。なんとなく、常ならざる気象状況は、今後も続くのではないかと予感させます。この間の異常気象により被災された方々には、まず心からお見舞い申し上げます。 私どものいる北関東でも、一部の麦の収穫直前の畑の場所を除くと田圃には水がはられ、田植えもほぼ完了しつつあります。梅雨の曇り空のもと、灰色の雲を映しこんだ田圃の一面に緑の苗がこの時期の自然のやさしさを伝えてくれます。この穏やかな景色からは、突風吹きすさびどす暗い巨大な竜巻が、堅牢だと思われていた建物の表面を破壊していった様子は、悪夢としか言いようがありません。 戦後の昭和22年から24年(1947年〜1949年)までの間に生まれた、ベビーブームの世代、通産省勤務時代の堺屋太一氏の名付けた「団塊の世代」が定年を迎える平成19年(2007年)以降は、ある意味新しい需要を産みだすであろうと期待されました(電通は2006年に団塊の世代の退職による消費経済波及効果を15兆3233億円と試算しました)。団塊の世代の人口は680万人(2004年時点)で、そのうち就業者は501万人といわれています。 実際には体力的にも仕事を継続できること、企業側の定年延長措置などから勤務を継続し、退職者は2011年までに134万人にとどまったようです。団塊の世代の先頭を切る昭和22年生まれの方々が65歳となる今年、2012年から本格的に退職者の数は増えていくのだと思われます。2007年に経済アナリストが期待した新しい消費経済が始まるのはこれからのようです。 今後最終的には360万人以上に及ぶと思われる退職者が年々増加していきます。団塊の世代の退職後の生活様式を、新たな需要が生まれることとしてとらえるのであれば、2012年は、経済上の転換点となるのかもしれません。他方で、これを労働市場という観点から見た場合、全体としての労働人口は、若年層の人口の相対的な少なさから、減少しづつけることになります。労働市場の構造的な変化は、国家経済を政策的に決定する上での重要な問題となることは間違いありません。経済構造的に決して明るくない見通しの中では、単純に消費経済にプラスの影響が大きく現れることは、期待できないともいえます。 とはいえ時間的に余裕のある人口層が増え続けることは、間違いありません。第二次世界大戦後の、いわゆる戦後民主主義の中で教育を受け、ある意味その幻滅を体験し、1970年代以降の日本経済を支えてきたこの世代は、経済アナリストが期待するような、不動産売買や旅行を含めたレジャー産業部門を潤す機動力にはならないかもしれません。より多岐にわたる趣味嗜好性の強いものへと消費活動は多様化していくでしょう。長寿命化社会に既に入り、その傾向が継続しますので、健康にかかわる消費は、医療費とともに増大することは間違いないでしょう。 日本社会の矛盾を指摘する言葉で、「どこよりも安心・安全・便利・快適な社会を実現しているにもかかわらず、幸福感を自覚する人の割合が先進国のどこよりも劣る(70位から90位台)」というものがあります。宮台真司氏は、自身のブログの中で、「エネルギー使い放題で便利快適な生活をするのが幸福だ」という紋切り型を信じるのをやめ、それが本当に幸せか胸に手を当ててみましょう。エネルギー消費が増えれば、(略)人々が幸せになるという道筋はどうも描けません、と述べています。http://www.miyadai.com/ 続いて、氏は「再エネ産業や節電産業が巨大な雇用と経済成長を生む」可能性を示唆しています。 安全・安心神話は、昨年度の東日本大震災による、福島原発の爆発事故と放射能汚染によって崩れ去りました。宮台氏の指摘するように、従来型産業の復活維持に将来を展望することは安易すぎるかもしれません。他方で個々人の幸福感は、与えられた社会環境に対する個々の関係のあり方と、人々自身の関係のあり方に大きく作用されるように思われます。平成10年以降国内の自殺者の数は、年間3万人を下回ることはありません。都会の中で人知れず逝去する人たちの問題が、孤独死(孤立死)として報道されることも珍しくなくなりました。 長寿化の中を生き抜くためには、便利であることを快適と思わない、不便性を快適に感じることが必要なのかもしれませんし、そうした兆候は少しづつ現れているようにも感じられます。健康志向ともあいまって、自然との関係を深める方向に、一つの大きな流れができていくようにも思えます。 ただ、自然は、たわわな稲穂の実りを予感させる緑豊かな田園を見せてくれる半面、突如として堅固と思われた住まいを一瞬にして破壊する突風をも生み出す側面を持っています。自然界に生きる生き物たちの生態を観察していますと、その生活は餌と繁殖を中心として常に生命の危険と隣り合わせであることがよく分かります。かつて、日本野鳥の会の松田道夫氏は、ご自身のブログで、野鳥観察といえども、自然の中に入る際には常に危険が伴うことを、多くの方々が忘れがちになることを指摘していました。http://syrinxmm.cocolog-nifty.com/syrinx/ 自然の怖さを含めたその奥行きの深さに感動を覚える瞬間をより多く持つように、団塊の世代の一つの流れができるのであれば、それはとても喜ばしいことではないかと思う昨今です。
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