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第03回 2000/12/20

  「オーディオ界」

この10日に、オーディオ評論家の「井上卓也」氏が逝去されました。氏は、ご存知の方も多いことと存じますが、「ステレオサウンド」誌をメインに、また「スイングジャーナル」誌にも数多くの評論を寄せられた方です。小生も13日の四谷でのお通夜には列席させていただきました。

井上卓也氏の経歴については、『ステレオサウンド』誌もしくは、『スイングジャーナル』誌にて今後掲載されるでしょうが、氏とは一度スイングジャーナルの藤井編集長と同席で、酒席を共にさせていただいたことがあります。骨太の印象を与えるかのごとき、ざっくばらんな話し方をされる方でしたが、私との共通の話題は「オーディオ」ではなく「鳥」でした。

私もいつのまにか、休日の国内だけでなく、海外出張時を含めた「鳥見暦」20年を超えてしまいましたので、話題に事を欠くことはありませんでしたが、氏の興味が翡翠であり、翡翠を撮り続けて何年にもなるとのお話に、氏の美的感覚のあり方と、話の中で見せる繊細さに大変興味深かったことを思い出します。

次回には、撮影の労作を見せていただく約束も、お互いの多忙さの中で果たされることのない口約束となってしまいました。翡翠が流れ舞い飛ぶ清流の遥かかなたで、心安らかにお眠りになられていることをお祈りいたします。

  MUSIQUE DE LA GRECE ANTIQUEのこと

さて前号で、harmonia mundiのMUSIZUE DE LA GRECE ANTIQUEの事に触れました。もともとこのディスクはレコード盤で演奏を試聴会などでおかけしてきたのですが、いつのまにか紛失してしまい、いまでは同一録音と思われるCD(HMA1901015)しか手元には残っておりません。この古代ギリシャ音楽の録音のCDでは、トラック21番に「アポロのためのゼルフィ第2賛歌」(訳責:小生)が記録されております。

そのトラックでのタイム2分45秒あたりから、ほぼ1分間にわたって泉を想起させる水音が当初は強調され、またその後は音楽と並存して録音されております。実はこの個所が、その当時の当社のアナログプレーヤーST930を他社と比較試聴するのに大変役立ちました。

正直に申し上げて、当社のST930が足元にも及ばないと自覚せざるを得ないレコードプレーヤーが2モデルあることが判りました。当時は確かスイスで作られていた、ゴールドムント社のエアーサスペンション+リニアトラッキングアームの組み合わせが文句なしのナンバーワンでした。

そこでは、清らかに澄みきった泉の水が躍動的にあふれ、かつ豊かな水量が、生き生きとほとばしり、すぐにでも手に掬って飲みたいとさえ幻想させるものでした。また、アメリカのベイシスもこれに比肩できるものでした。価格的には、当社製品が13万5千円であるのに対して一桁上のレベルですからやむをえないとはいえ、これはある意味のカルチャーショックでもありました。

これらと比較する時、極端に言いますと、当社のST930ではまるで泥水が力なく漏れ出ているかのようです。このショックをばねに後日作り上げたのが、ターンテーブルFR-XL1であり、CDトランスポートTL-0であります。