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ホーム/コラム/長安からの手紙

第03回 2003/06/02

from 山崎 孝之(開発部)

5月も終りに近づいて、広東省東莞市長安の町は日本の真夏のような日差しになって来ました。太陽の位置は昼時には殆ど真上に来て、影は足元に小さくなっています。

さて、現在の開発状況ですが、ベルトドライブモデルの後継機は、ベルトドライブの特徴である完成モーメントの大きなスタビライザーを使用してのサーボの検討に入っています。内周と外周とでは運動エネルギーに差が有るため、その制御エネルギーも異なっており、サーボゲインを最適になるよう変化させています。まだ手作りの一台ですが、ゲイン変化の最適化の検討評価は順調に進んでいます。

閑話休題。最近の話題から。
SARS騒ぎも香港と広東省に対する、WHOによる渡航延期勧告が解除され、一段落となった感じです。事実、5月下旬に香港を訪問した際には、4月に比較してマスク姿の人が少なくなっている様に感じました。しかしながら、出入国の際には、以前にも増した管理が実施されています。健康報告書の非提出は先月では黙認されていましたが、今回は通して貰えませんでした。中国側では出国時と入国時の両方に必要です。中国の様式はパスポート番号(身分証番号)と連絡先、署名。対して香港の様式はパスポート番号(身分証番号)と署名。又、シンセンから当地への移動に使用する高速バスも、チケット購入前に健康報告書が必要でした。前回は無かったものです。こちらの様式は上記の内容に加えて中国での滞在地(住所)を番地まで記載させるという徹底したものです。(確認の術が無いのでデタラメでも通りますが…)虚偽の記載が判明すればきつい罰則が待っているのは必定です。

非接触の体温計が急ピッチで生産されているとの事です。ピストル型のものが前述のチケット購入前の検査に利用されています。出入国管理の場所では全てのゲートで待機場所の頭上にカメラが設置され、順番待ちの間に検査されているという具合です。このような徹底した管理の結果が、先の渡航延期勧告の解除に繋がったものと思いますが、一方、早々と制圧宣言が出されたカナダのトロントで患者の再発が見られるように、病原体そのものはどこかに潜んでいるものと思われます。このような状況から、しばらくの間は体温測定と、健康報告書の提出要求は続くことでしょう。日本から中国・香港へ渡航される方も多いでしょうが、SARS対策のマスクはもちろん、頻繁な手洗いの励行や、握手に代表される親愛の表現などは自粛されることがSARS予防の第一歩ではないかと思います。

元々、中国の人たちは生野菜を始め、凡そ西瓜や果物以外の全ての食材は火を通さないと口にしません。それほどの衛生観念を持っているのに、野生動物に対する食習慣から今回の騒ぎが引き起こされたとの報告もあります。衛生に対する考え方はその地方の文化でもあり、文明とは多少異なっている面が有るのでしょう。生ものは非衛生的と口にしない彼らも、辺り構わず痰を吐き散らし、部屋の窓から戸外へごみを捨てる(高層アパートでも!)、歩きながら物を食べ、食べ滓を路上へ吐き散らす、このような事が彼らの社会では日常なのです。

SARSが中国の衛生に対する文化を一変させると主張する人も居ますが、文化である以上、それほど簡単には変わらないでしょう。文明とは科学技術や社会制度の発達に伴い普遍的に広まるもので、文化とはその地方に限定される特有の習慣や考え方との、見方があります。日本人の食文化の代表である刺身も、古くから新鮮な食材と、清潔な水が容易に得られたことから、水で洗っただけで食べることが可能な土地柄に根ざしたものなのです。中国でも殺菌や消毒といったウィルスに対する防御手段は文明として受け入れられるのでしょうが、食習慣や生活習慣などの文化に根ざした部分はなかなか変わらないと思います。