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第18回 2003/12/01
生命40億年全史
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書名:生命40億年全史
著者:リチャード・フォーティ
出版社:草思社
出版年月日:初版2003年3月10日
ISBN:4−7942−1189−9
価格:2,400円

この本の帯広告にはこう述べています。「生命がつむぐ物語の、この圧倒的な面白さ!激変、絶滅、地殻変動、そして進化 この一冊に、劇的かつ雄大なる40億年の全てがある。」またこの翻訳者のあとがきでは、端的に「一読巻措くあたわざるおもしろさである」と。この本の「面白さ」は、しかしながら無前提的ではありえません。少なくとも現代における古生物学界での論争の一端について、わずかな知識でもあればという前提が必要だと思われます。この「観照記」第7回目で、スティーヴン・ジェイ・グールドの『ダ・ヴィンチの2枚貝』を、第16回でウォールフの『地中生命の驚異』を紹介しましたが、この著作もそれらの本に連なるもののひとつです。

進化論を軸にした地球生命の現代における理解を総括的に表現しようとしているという点でも、諸学説の相違を明確にしているという点でも、更には学説の裏にある学者の本音を吐露することにやぶさかでないという点でも、「圧倒的に面白い」と語るにやぶさかではありません。原題は『LIFE: An Unauthorized Biography.』。著者、イギリス、ロンドン自然史博物館の古生物学者であるリチャード・フォーティは、彼と対極に位置すると思われる、前掲のグールドを一躍学術舞台に送り込んだ著作、『Wonderful Life』を意識してこの著作の題名を決めたとも憶測されています。

この地球に生命が誕生してから40億年。様々な生命体が、時々の環境の下で生まれ、進化し、あるものは絶滅し、またあるものはある時点であたかも進化の過程を止めたかのようにみえながら地球の今日が存在している。過去、誕生し、生きながらえ、また絶滅した何百万、何千万、否何億種類に及ぶ生き物が、化石という形で過去の地層の中にその墓標を刻んでいるだけでなく、それらが生き抜いてきた環境とそれへの適応を、近代科学の技術とそれに携わってきた科学者たちの推測の世界の中で次第にその姿を明らかにしつつあるようです。著者が、謙虚にも「Unauthorized」としているのも、画期的な地層の年代判断技術や、化石から得られる細胞のDNA鑑定という現代分析技術をもってしても、なお多く憶測、推測の域を出ない、偶発的出来事に左右されたであろう突発的な環境の激変に(それも瞬時ではなく、何万年にも及んだと思われるほどの長い時間をかけて)、この全史が深く影響され、関わっていることを謙虚に認めているからです。この「生命40億年」の歴史に述べられていることがらは、そのそれぞれの時代を明白にしようとしてきた諸々の碩学達の激論の歴史でもあったことが実に良くわかります。

およそ自然科学に関わる諸学問のうちで、古生物学の占める社会的な地位は、ほんの十数年前までは決して高いものではなかったようです。従って古生物学者のどちらかといえば、孤立した、決して科学的であるとは見做される事のない孤独な作業(極北の無人の僻地での化石探し)が冒頭に描かれます。だがこうした作業が、次第に明らかにしていった地球史は、他の学問分野を呼び覚まし、ひいては古生物学そのものの地位を高めていったのです。その画期的な出来事が、20世紀初頭にドイツの気象学者、アルフレート・ヴァェーゲナーの大陸移動説、『さまよう大陸』をめぐる全世界的な学術論争でした。この論争に最初に決着をつけたのは、極寒の極北の地や、熱波や砂嵐が猛威を振るう砂漠を這いずり回ってきた、古生物学者の地道な実証的な研究成果でした。まずはゴンドワナ大陸が、最終的にはただ一つの大陸塊としてのパンゲアの存在が、「科学的に<略>階級の最上位に位置している、(ニュートン、アインシュタイン等に代表される脈絡に連なる)理論物理学者たる数学者」を動転させ、証明されたのです(第8章 大陸塊)。生真面目かつ謙虚な著者は、ここでちょっぴり誇らしげにこう語ります。「大陸移動派」対「反大陸移動派」をめぐる物語は、野外研究者が理論物理学者に勝利を収めた数少ない例の1つである。」

この『生命40億年全史』は、人類が誕生する以前の、所謂先史時代末までを記述し、筆を置いています。生命史であるとともに科学論争史である本書は、最後に、この膨大な歴史の中で幾度か重ねられてきたある生命種の大量絶滅にもかかわらず、これまでのところ「生命は常に勝ち抜いてきたのだ。」しかし、先史時代以降、人が「意識」を持って歴史を作りことが可能となってきたこの時代、「人類の未来は、世界の未来を巻き込むことになる」とし、人類の賢明な「選択」さえあれば「生命は何とか対処してゆくことだろう」と結論するのです。