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第60回 2005/10/01

今回の発信で、この「独り言」も60回目を迎えます。1年間に12回ですから、新規CEC立ち上げ後、5年を経たことになります。これも、ひとえにCECとCEC製品を暖かく見守っていただきました皆様のおかげと、心から感謝いたしております。

さて、この9月16日に、オーディオ業界のみならず家電業界でも何かと話題を集めてきました、JR秋葉原駅に連結した「ヨドバシカメラ・秋葉原店」がオープンしました。開店当日の賑わいは、かなりの話題を集めるほどでした。「ヨドバシカメラ」は、カメラ、時計、オーディオ製品にとどまることなく、一般家電製品、双眼鏡などの光学製品等へと販売商品のカテゴリーを広げている、今や日本でも有数の大型小売チェーン展開を見せている巨大勢力です。開店以前には、「これで小型の電気専門店の将来も趨勢が(悪い方向で)定まった」と、秋葉原電気店街にあたかも暗雲が立ち込めるかのような悲観論が主流であったように記憶しております。

過日、秋葉原を訪れた際、この「ヨドバシカメラ・秋葉原店」にもお邪魔させていただきました。ウイークディの火曜日、それも午後3時前後と本来であれば一番集客上の条件はよくありません。しかし、1階から各階ごと、全ての階で多くの方が来られている光景にまず吃驚しました。開店から2週間あまりしか経っておりませんので、開店当時のブームがまだ継続している要素もあるでしょうが、それだけで説明できることではなさそうです。商品の陳列の方法、商品カテゴリー毎の整理の仕方、顧客の店内での移動の方法、若い主婦への心配り等、そうした「ヨドバシカメラ」ならではのオリジナリティは、確かにかなりの工夫と資金力を投じたことがうかがわれました。最寄りの駅、JR秋葉原駅に隣接していることも、高い集客能力の重要な要因でしょう。しかしそれ以外にもこれほど多くの方々が来られている要因があるように思われました。

第一に、「ヨドバシカメラ秋葉原店」開店の直前、8月下旬に開通した「つくばエクスプレス」が最も重要な要素として挙げられます。このつくばエクスプレスは、単に秋葉原とつくばを結んだだけでなく、ルートが実に現実感覚に見合った、素晴らしいものです。秋葉原から、八潮、三郷(埼玉県)、流山(千葉県)、守谷(茨城県)と一都三県を通りますが、終点のつくば市を含め、これまで全て都心へのアクセスが、非常に不便だった町や市ばかりなのです。しかも、それぞれの現在の新駅周辺には、かなりの新興住宅地が広がり、(というのも都心へのアクセスが不便であることから、相対的に地価も安かったようですから)、まったく「役に立つ実に便利な」路線なのです。これをどこかの政治家が企画したとしたら、大いに宣伝しても誰も文句を言わなかったでしょう。このことは観点を変えますと、都心へ買い物に行くにもこれまでは、バスや遠くの最寄りの既製路線を乗換、乗換しなければ行くことができなかった人々を、一挙に秋葉原、そして東京へと開放したことになります。つくばエクスプレスの開通によって、これまで秋葉原そして東京へは距離をもって感じていた人々を獲得できる機会が大幅に増大したのです。

そして第二の要因は、駅自体と、駅周辺の環境の整備が一挙になされたことです。これまでは、どちらかというと一部の電気機器マニアのための雑然としたイメージの強かった秋葉原が、旧野菜市場や国鉄清算事業団跡地を全面的に再整備し、かなり大きな、かつ決して流行に遅れをとっているようには見えないファッショナブルなレストラン専門のビル、またその向こうには、かつての霞ヶ関ビルを髣髴させる巨大かつ近代的な事務所を主眼としたテナントビル、それらが、それ以前の近道を損なうことのないように工夫されて建設されました。悪い言葉で言えば、どちらかといえばダサい感じの町が、一夜明けてみたらまったくの近代都市に変身した感さえあたえます。

東京の首都環状線である山の手線の主要な駅としては、従来、東京駅を別格として、新宿、渋谷、池袋そして上野が挙げられていました。しかし駅とその周辺の環境の完璧な整備(現在でも全てが完了しているわけではありませんが)は、多くの方々を、秋葉原駅をこうした主要駅のひとつにカウントさせるようになることは間違いないでしょう。

こうした条件は、ヨドバシカメラ・秋葉原店だけに効果をもたらすものでしょうか。これまでは来なかった方々が、来るようになったのです。顧客の絶対数が増えているのです。これは、秋葉原に店舗を持つ全ての経営者に平等にこれまで以上の営業機会を与えていると見るべきでしょう。更に、ヨドバシカメラでは売っていない製品を取り扱っているお店にとっては、そのこと自体が既にセールスポイントになりえます。秋葉原専門店さんの将来に、明確な指針のひとつが示されているようにも思えるのです。まだ新秋葉原においでになったことのない方がいらっしゃいましたら、一度訪れてみることをお勧めします。

さて、過日、札幌にて、当社の製品試聴にあたり、主催者の音楽評論家・谷口静司氏から、「五嶋みどり」の弟とは最早いえない、卓抜した演奏力と将来性を秘めたヴァイオリン演奏家として、五嶋龍(りゅう)さんの作品が、出席された皆さんに紹介されました。ドイツグラムフォンから出された『Ryu Goto』というタイトルのCDを購入、聞いてみました。(録音は本年の6月、ロンドン、UCCG-1252 477 5922)比較的に小曲といわれるものでの構成でしたが、演奏は実にしっかりしたもので、技術的には『パガニーニによる超絶技巧練習曲 第3番』を聞けばその研鑽の積み重ねの決して浅くはないことと、技術レベルの高さが良くわかります。男性的力強さよりも、作曲家の意図にきわめて忠実かつ繊細に演奏しようとする姿勢がなんとも好ましく聞こえる素晴らしいCDでした。恐らく音楽的には間違っているのでしょうか、個人的には『サラサーテ:カルメン幻想曲』は、もっと大胆に表現して欲しかった。いずれにせよ、一度ご試聴されることをお勧めいたします。たまたまこの五嶋龍さんとそのお母さんの対談が「文藝春秋」10月号に掲載されているのを目にしました。若い演奏家の日常性をほほえましく感じさせる対談です。

最後になりました。このホームページの冒頭でも紹介いたしておりますが、今月の7(金)、8(土)、9日(日)の三日間、東京有楽町で、恒例となりました、ハイエンドショー東京を開催いたします。当社のアンプ関係の設計者であります、カルロス・カンダイアスも可能な限りCECブースにいるようにいたします。多くのお客様においで頂ければ大変光栄です。