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第42回 2004/4/02

今日から4月。欧米風にカレンダーを読みますと2004年も第一四半期が完了したことになります。地球温暖化と都市部におけるヒートスポット現象のせいでしょうか、東京での桜(ソメイヨシノ)の開花情報もはや昔のこと、今月第1週末には 満開を過ぎた桜の花びらの散る下での花見が予測される昨今です。思い起こしますと、ちょうど一年前のこの時期には中国華南地帯を中心としたサーズ(SARS)禍の真最中で、出張することも、また当該地帯から来てもらうこともできず、なんとも持って行き場のないやるせなさを味わっていたことがはるかかなたの出来事のようです。

2003年のSARSに代わって登場したのが、2004年の「鳥インフルエンザ」。飛来しまた戻る、鴨などの渡り鳥が黒い霧の主人公にされつつあるようですが、必ずしも同調できかねる風聞と世相傾向です。ヒトが体内に様々な大腸菌等の微生物と共生することによって「健康」といわれる状態を保ってきているのと同様に、動物はそれぞれに固有の微生物と共生しています。野生に生息する鳥も然りで、数億年の進化の過程を経て固有のウイルスを含んだ微生物と 共生していることはいうまでもありません。「鳥インフルエンザ」もその一種です。この鳥インフルエンザが、きわめて病毒性の強いものに突然変異したものが「高病原性鳥インフルエンザ」です。昨今問題とされている家畜として飼育されている鶏に大量発生し、世間の耳目を集めたのがこの「高病原性鳥インフルエンザ」で、これを「鳥インフルエンザ」と一般化することは間違いで、問題の所在を不明確にしかしません。

大手のメディアは、この「高病原性鳥インフルエンザ」発生の原因追及にあたり、渡り鳥による感染、若しくは人の移動による感染を様々に憶測し、学識者の卓見を紹介しています。「いかに発生したか」を学研的に追及することは間違いではありませんが、「なぜ防げなかったのか」を行政的に追及することを隠すことになってはいないでしょうか。少なくとも本年1月にWHO西太平洋事務局はマニラから、治療薬を認定(リン酸オセルタミビル)し、かつ予防措置としてインフルエンザワクチンの接種を訴えています。それから2ヶ月後、京都で大問題が発生するにいたるまで、行政はWHOの勧告を一般論として各都道府県の衛生担当部署に「通知」を出しただけで、インフルエンザワクチンの接種を義務化するどころか、確保にも動いていません。

養鶏業者の当該行政当局への届出の意図的とも思える遅延は、弁解のしようがないところです。しかし、人工的に飼育され、それもきわめて大量に行わなければ採算が取れない養鶏業界にとって、一旦「高病原性インフルエンザ」が発生すれば、まさに燎原の火のように燃え広がることは、自明だったはずです。養鶏業者の無責任な対応は非難されるべきですが、インフルエンザワクチンの摂取を義務付けることもなく、その確保に積極的ではなかった行政当局の姿勢の方が、より悪質だったとはいえないでしょうか。

「高病原性鳥インフルエンザ」と「鳥インフルエンザ」に置き換え、感染源を追求する姿勢をとることによって、「防ぐことのできたはず」の災害がなぜ防げなかったのかの原因追求を曇らせていないでしょうか。昨年SARSが恐ろしい脅威となって現れたとき、SARSそのものの原因追求は専門の学徒と権威に委ね、関係行政当局と、大量にワーカーを雇用している工場経営者は、何はさておきその拡大を防ぐことに全力を挙げました。その経験が生かされていないことにやりきれない思いをしているのは、実に悲しいことです。

春爛漫の今日この頃、希望と期待を持って進学、就職される若い方も多いことでしょう。一見正しく見える問題追及の姿勢に、実は意外な落とし穴があることを学ぶことも必要かもしれません