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ホーム/コラム/みだれ観照記/日本の動物はいつどこからきたのか

第51回 2006/09/25
日本の動物はいつどこからきたのか

書名:日本の動物はいつどこからきたのか
著者:京都大学総合博物館編
発行所:岩波書店 (岩波科学ライブラリー)
出版年月日:2005年8月4日(初版)
ISBN:4−00−007449−0 価格:1200円(税別) http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/0/0074490.html

いうまでもなく国としての日本は、大小さまざまな島から構成されています。欧州ではイギリス、アイルランド、アイスランド、東南アジアでは、フィリピン、インドネシアなどが同じように多くの島から構成された国々です。しかし生物相の観点から見るとき、日本ほどに動物の固有種が、限定的また広範に多く生息している島国はないように思われます。

鳥類ですと、平野部であれば日本全国、普段どこにでも見かけることのできるセグロセキレイは、広くユーラシア大陸のほぼ全域に生息するハクセキレイと異なり、日本にしかいません。すでに絶滅したと判断されているニホンオオカミ、ニホンザル、ニホンカナヘビと、日本の固有種は枚挙に暇がありません。さらに、日本の中でも、琉球諸島、小笠原諸島にはその島々でしか見ることのできない固有種が多く観察されます。

この「日本の動物はいつどこからきたのか」は、京都大学の動物学に携わる13名の研究者が、それぞれの研究分野において、日本の動物相の特異性を、日本列島成立の歴史的、地理的な観点から(動物地理学)判りやすく解説したものです。編者の「あとがき」によりますとこの書籍は、2005年の秋に開催された、「日本の動物はいつどこからきたのかー動物地理学の挑戦」と銘打った企画展を文書化したもののようです。

最近の新しい分析技術、DNA鑑定の開発は、従来の形態分類学上の常識をかなり覆し、これまでは形態的に類似していることから同一種とみなされていたものが、実はまったく異なった種であることがかなり判ってきたことが説明されています。動物地理学は、より正確な種の区分(形態分類が)が前提でありますから、この種の区分の相当な明確化が、動物地理学的にかなり飛躍的な発展をここ数年もたらしていることが描かれています。

本書で取り上げられた動物を列挙してみましょう。琉球諸島との関連で、ヘビ、そしてカエルの仲間、伊豆半島のトカゲの仲間、本州、四国、九州のサンショウウオの仲間及びサル、シカ、クマ(ヒグマ)、沖縄を除く地域の海浜性ハンミョウの仲間、同じく昆虫のハムシの仲間、日本全域のメジナ(魚類)の仲間、アサリとハマグリ、絶滅したニホンオオカミ、小笠原諸島の特異生物全般。 13名の研究者が、おのおの研究対象としている、こうした実に多彩な動物の過去と現状が、日本列島の成り立ち、そしてまた海流の生成との関係で解説されています。

動物地理学は、どこにどのような動物がどのように生息しているのかを把握する学問分野であるともいえます。その前提となる動物種の正確な解析技術の革新(DNA解析)は、これまでの常識をかなり覆して生きていることが、随所で報告されます。しかしその助けを借りてもなお、研究者によるフィールドワークは不可欠であることは言うまでもありません。

日本列島の成立の過程は、地質学的にその概要が次第に判明しつつあるだけでまだまだ不明な点が多いといいます。動物地理学は、ある意味で、日本列島成立史の補完にもなりうる可能性を十分秘めていることがこの解説書からうかがうことができます。海を泳ぐメジナの何種類かの棲み分けが、日本列島の周りを流れる親潮や黒潮の生成過程と深く関わっていることを十分証できる傍証となったり、さまざまな種類のハムシの生息領域とその化石が、日本列島とユーラシア大陸との分離時期を示唆していたりとすれば、動物地理学とはなんとなく壮大な歴史ロマンを語っているようにも読めるのです。日本列島の成立を、さまざまな動物の生態からうかがうことのできる、きっと皆さんに新しい眼を与えてくれる解説書です。お読みになられてはいかがでしょうか。