White
White CEC LOGO HOME 製品 テクノロジー サービス 会社概要 コラム メール English White
White

ホーム/コラム/みだれ観照記/雑草にも名前がある

第28回 2004/10/01
雑草にも名前がある
28

書名:雑草にも名前がある
著者:草野双人
出版社:文藝春秋
出版年月日:2004年6月20日
ISBN:4−16−660385−X
価格:700円(税別)

道端にひっそりと、しかししぶとく生きている草に興味を持つようになって、それほど長い期間が過ぎたわけではありません。図鑑で調べ、インターネットで検索しながら、人里に生息する草花の名前がひととおりわかるようになった程度にすぎません。しかしその過程で思い知ったことは、これまで身の回りにあって、これほどに自己主張をしている草本類に分類される、何と多くの植物のことを知らなかったのかということであり、また別の環境では、あたかも未知との遭遇のように、自分にとっては新しい植物が現れ出て、まるで知的に無限とも思える世界に入り込んだ軽い興奮さえ覚える日さえありました。

逝去した昭和天皇は、その程度は知りませんが植物学者であったとか。そのせいか、身の回りの野草をひと括りに「雑草」と呼んだ側近に、「雑草という名前の植物はない」と諭されたとの逸話も聞き及んでいます。

この本のタイトル、「雑草にも名前がある」は、まさにその昭和天皇のことばの別の表現です。タイトルを見ただけで、購入した新書版です。全部で28種類の「雑草」が紹介されています。その種類ごとに、生態を簡潔に判りやすく、かなり文学的な要素を含めながら説明してくれます。野草好きの人でなくとも、思わずその世界に引き込まれていくような魅力ある文章表現です。

「ヘクソカズラ」の項で、かの有名な植物学者、牧野富太郎をある点では凌ぐとはいえないまでも、伯仲した植物学的実績を後世に伝えた、阪庭清一郎を紹介しています。何とこの「雑草」の権威者、阪庭清一郎は、私が当社を独立させる前に5年間勤務していた埼玉県児玉郡神川町の出身(当時は、児玉郡丹庄村)とのこと。氏の功績を含め、大変勉強になりました。勤務していた当時、既に草本類に興味を持っていたのですから、勤務先の近くの町立図書館に足を運べば意外とこの世界に深く入り込む近道だったかもしれません。

さてこの本、単に28種類の「雑草」を述べているにとどまりません。それぞれの雑草を契機に、名もなく歴史に埋もれていった人々の足跡をたどる、または有名人となった人々の知られざる一面を紹介する作業にも及んでいます。雑草として切り捨てられ、それぞれ固有の名を覚えられることのない草花を紹介することにとどまらず、それを意識する私たち人間の中にも、決して忘れ去ってはいけない人々が多く存在してきたし、今もそうした人々がいることを語っているのです。

雑草として意識されることのない草と、まったく同様に個性と業績ある個人として名を後世に正しくは伝えることのなかった人々を同時に紹介したものでもあるのです。この本の著者は、草野双人氏であり、それぞれの項目は全て一人称で書かれていますが、実は二人の共著であることが、「おわりに」の最後に述べられます。『オバQ』や『ドラえもん』で有名になった漫画家、「藤子不二夫」氏と同じ作業をしたというわけです。なんとなくユーモラスですが、その内容は立派。草に興味のある方も、まったくない方も、一度手にとって見ることをお勧めします。