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ホーム/コラム/みだれ観照記/ダ・ヴィンチの二枚貝

第07回 2002/08/26
ダ・ヴィンチの二枚貝 進化論と人文科学のはざまで
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書名:ダ・ヴィンチの二枚貝 進化論と人文科学のはざまで(上・下)
著者:スティーヴン・ジェイ・グールド(Stephen Jay Gould)
出版社:早川書房
出版年月日:2002年3月31日初版
ISBN:4−15−208397-2(上)、208396−4(下)
価格:各2,200円

「訳者あとがき」によれば、本書の著作者、グールドは、2000年4月に、アメリカ合衆国の「現存する伝説的人物」の一人に選ばれたという(選出者は、アメリカ議会図書館の各部門長)。率直に言って、読むのにこれほどの時間をかけざるを得なかった書物は、ここ数年記憶にない。科学的な論文に接する機会があまりなかったことだけではない。

アメリカの最も進んだ知識人として広く知られた(ハーバード大学教授)人物の奥行きの深さと、幅の広さの描き出す世界は、少なくとも東洋的な枠に無自覚ではあれとらわれてきたこれまでの知識と、わずかながらの知的経験では、単純には掬い取れない内容展開の異端性に戸惑ったことは事実である。

とはいえ、ここに描かれた歴史的な事件、事実、推測、のどれひとつをとっても、(少なくとも自分にとっては)まったく目新しいテーマであり、極めてユニークな論理展開の方法であったし、眼からうろこの落ちる思いも数箇所に止まることがなかった。現代アメリカへの風刺的な諧謔にみちた表現を随所にちりばめながら、西洋文化史を背景にした幅広い教養が、歴史的な積層の上に成り立つ現代の自然と社会に、鋭い問題の提起を投げかけている。

原題は、「Leonardo's Mountain of Clams and the Diet of Worms (1988)」。科学的な内容に対する下手な論評は控え、ニューヨーク・タイムズの書評を引用しよう。

 
「この(ナチュラル・ヒストリーに連載された)[ステファン・ジエイ・グールズの]新たなエッセイ集で、彼は自身の膨大な知識を駆使し、あくことなき知的欲求を、果てしなく興味深い自然に向け、人類が究明しようとしたそのなぞを解き明かす、特異な進化論の真髄における、戦いのさまざまな方法を解析し、それぞれ固有の存在がもつ意味をこの知的体系の中で解き明かした。グールズの、くだけた、ユーモアにとんだ、時としてアイロニックな、かつ洞察力にとんだ独特の表現方法は、読者を後戻りできない熱中の坩堝に引き込むであろう。」

化石、恐竜、進化論、科学と宗教、種の絶滅、コロンブスの(悪)業績、宗教史、これらのどれか一つにでも興味のある方には、一読を是非お進めする。エッセイ集(決して軽くはないが)故に、目次から興味のありそうな部分を選び、そこから読み始めることも充分可能です。1941年生まれ、この著作が日本で出版された2ヵ月後の本年5月、ガンで死去。享年60歳。