White
White CEC LOGO HOME 製品 テクノロジー サービス 会社概要 コラム メール English White
White
タイトル



第09回 2001/7/03

  再生音楽に対するCECの基本的なスタンス・その4
   CEC ・ベルトドライブCDプレーヤーへの道

CDプレーヤーとアナログレコードプレーヤーの違いは、多々あります。まず回転原理から説明いたします。

ステレオ・アナログレコードプレーヤーでは、レコード盤に彫られたV字型の溝の両方の壁に、それぞれRチャンネル、Lチャンネルの音楽信号を細かく刻み込み、それをダイアモンド製の針先がなぞるように移動することにより、わずかな振動が発生します。その振動をダイアモンドの針に接続した金属製のレバー(梃子)、通常は「cantilever(カンチレバー)」【建築用語:片持ち梁(はり)のこと。用語例→ a cantilever bridge:片持ち梁(はり)橋」と呼称されます】が受け、このカンチレバーの根元部分をマグネットで覆うことにより、たいへん微小な物理信号を、たいへん極小な電気信号に変換していきます。

このダイアモンド針からマグネット部分を含む、物理信号から微小な電気信号に変えるまでの作業を、カートリッジが受け持ちます。レコード盤上の音楽信号は、円周の一番外側から一番内側へと刻み込まれ、レコード盤の1周の回転速度は常に一定で、通常30cmのディスクで一分間に33-1/3回転の速度【レコード創世記には78回転もありましたし(多くはSP録音盤)、いわゆるドーナツ盤(EP盤)は通常45回転】で回るよう規格統一されています。

レコード針とレコード盤上の音溝が接触することによって信号を伝達するわけですから、回転する角速度はレコード針の位置に関わらず、常に一定でなければなりません。また、レコード針を含むカートリッジを支えるトーンアームは、できるだけこのターンテーブルの一定速度の回転に追随できるように設計されていなければなりません。正確な回転を確保するターンテーブルの設計、また、外部からのノイズを極力排除するための「工夫」、トーンアームの精度を損なうことのないトーンアームベース設置条件の確保が、レコードプレーヤーメーカーの課題でした。回転する角速度が一定であることから、角速度一定の理論でアナログプレーヤーは動作しているといわれるゆえんです。

他方で、CDプレーヤーは、ディスクに印刷されたデジタル化された音楽信号にレーザー光線を当て、その反射によりデジタル信号を読み取ります。このデジタル信号の最小単位、ピット自体は単なる01信号の組合せでしかありませんので、複雑な音楽信号は膨大な量のビット数に細分化され、更にその信号を素早く、適切な高速で読み取っていくことが必要です。戯画化して申し上げますと、1コマ1コマの静止画を、その条件毎に素早く回転させることにより、あたかもその静止画が動画として見えるような工夫(いってみればパラパラ漫画です)を、音楽的に施したものがCDプレーヤーであるともいえます。

このデジタル信号はアナログレコード盤とは逆に、ディスクの内周から外側へと記録されております。このデジタル化された信号は、1秒あたりの長さ(大きさ)が一定のものとしてしか記録されません。物理的に刻まれたアナログ信号と異なり、量子化されたビットは、同一の速度条件を必要とします。これを回転原則上「線速度一定」といいます。

こうして、光を介した非接触の信号読み取りにおいては、角速度を一定とするために、その信号の置かれた(印刷された)場所ごとに回転速度を変化させることが必要です。つまり円の内周では早く回転させ(約600rpm:1分間に600回転、つまり1秒間に10回転)、外周では遅く回転させる(約200rpm)必要があるのです。

その中間のあらゆるポイントで同様のことが言えます。【通常のCDプレーヤーは1枚のCDディスクを約64分(3,840秒)間で最内周から最外周まで、トレースするのですから、3,840秒かけて、1秒間に10回転(最内周)から、3.3回転(最外周)へと、少しづつ変化させているわけです。】しかし、この、ほんの少しづつの変化を、如何にスムーズに行うかが、実は大変重要なポイントで、CECのベルトドライブCDプレーヤーのトレース能力が、実は注目されるべき点なのです。

このCDプレーヤーにおいては、まずレーザー光線を出すレーザーピックアップが、アナログプレーヤーにおけるカートリッジ、レコード針と同様の重要度を持ちます。いかなる条件においてもレーザー光線を一定に且つ正確に射出し、またその反射を正確に受光する。そのためには、レーザーピックアップ自体が正確無比で、しかも温度湿度変化に強く、軽いことが条件となります。

CDプレーヤーの初期には、ほとんどのメーカーが、カメラ専業メーカーの小型レンズの供給に負うところが大きかったのです。しかしガラスレンズは、温度変化に弱く(急速な温度変化により結露を帰結する、即ち音が出ない)、また重いため、CDの情報読み取りの速度に支障をきたしておりました。

ここでプラスティックのピックアップレンズの採用が1990年代半ばより次第に増え始め、現在ではプラスティック製レンズ以外は、採用されていないと思われます。実は、このプラスティック製品の応用技術において、日本の家電メーカーが他産業に寄与した貢献度は相当なものがあります。

戦後においての最初の大々的な採用は、ラジオキャビネットでした(その後も続々、他産業製品のプラスティック化の道は続きます)。それ以降、日本の弱電メーカーによる、この樹脂成形技術の開発の歴史が、そのまま現在のレーザーピックアップの市場占有率にも現れているようです。部品単体でのレーザーピックアップ生産、供給の全世界ナンバー1はソニーであり、ナンバー2は三洋電機です。更にひるがえって、半導体部品とプラスティック製品を多用する、現在の小型汎用タイプのカメラも、弱電メーカーの協力を大としているようです(デジタルカメラを別にすると、そうした弱電メーカーはOEM供給を以って任じているようです)。当社が、第1号機のCDプレーヤーを開発した際、当時の親会社でありました三洋電機が本格的にレーザーピックアップの開発、生産に着手し始めたことも、当社にとりましては全くの僥倖でした。

さて、CDプレーヤーが必要とする、こうした速度変化に対応するために、サーボ機能に支えられた、小型モーターのセンタースピンドル(シャフト)に、ディスクを載せる小型のターンテーブルを直接固定し、ディスクを回転させる方式が、CDプレーヤー誕生以降一貫して採用されてきました(1980年代)。つまりアナログ時代の言葉でいうと、ダイレクトドライブ方式が採られて来たのです。当社が、ベルトドライブ方式CDプレーヤーを世に問う(1991年、TL-1を世界で初めて発売、現在でもベルトドライブ方式CDプレーヤーの唯一のメーカーです)までは、世界中のどのメーカーも、自社で採用しているCDプレーヤーの駆動方式がダイレクトドライブ方式であるとは認識していなかったことと思われます。つまり、CDプレーヤーにあっては、方式に名前を付ける必要がないほど、ディスクをモーターで直接回転させつつ、モーターの回転速度を変化させることにより、ディスクの回転に変化をつけることが、「唯一無二」の方式であったわけです。

しかし、この回転に変化を付けるやり方を電気的なサーボ方式で行うことにより、実際はアナログプレーヤーにおけるコギング現象に似た蛇行的、非円滑的回転要因を招来し、そのため、常にエラー訂正を強制的に行うため自然なトレースが妨げられ、ひいては本来CDディスクに刻まれた信号を読み取るのに余計なエネルギー(本来、信号を100%読み取ることに費やすべきエネルギー)を費やして、結局再生音を悪くしている、と思われてならないのです。

こうした状況下で、当社が「ベルトドライブ駆動のCDプレーヤー(トランスポート)」と謳った途端に反応を示したのが、アメリカのハイエンド・オーディオ誌「アプソリュートサウンド」でした。「本当に音が出るのか、なぜ出るのか、出るとすればすばらしい音であるに違いない」という、驚きと期待に満ちたコメントでした。(残念ながら、日本のプレスでは、ほんの一部の編集者を除くと、ベルトドライブ自体が驚きの対象とはならなかったようです。)

アナログレコードプレーヤーの時代には、ダイレクトドライブであるため、ディスクの真下(若しくは真上)にモーターがあり、これではモーター自体の振動と、その磁気から逃げることはできない、というのが常識でした。少なくともハイエンドオーディオ界では、アナログレコードプレーヤーにあっては、ダイレクトドライブに対するベルトドライブの優秀性は誰もが認めるところであったのです。当社のベルトドライブCDプレーヤーは、北米、欧州共同体、日本に特許を申請し、北米、欧州では、3年も以前に特許が受理、成立いたしました。しかし、日本の特許庁では今も、ing…審議中です。簡単に認可にならない理由は、「ベルトドライブは、レコードプレーヤーにおいても存在した。CDプレーヤーへの適用は、単なる同一物の採用対象の相違であって、特許とはいえない」というのが、審査官の主張のようです。

レコードプレーヤーとCDプレーヤーの相違をほとんどご理解いただけない(音楽をほとんど聴いているとは思えない)お役人に、もう5年以上お付き合いしています。幸い、最近の報道では、小泉純一郎内閣総理大臣は「音楽好き」とのことですので、小泉純一郎内閣総理大臣閣下に、直訴したいくらいです。