ヨシゴイ:日本に生息または飛来してくるサギの仲間では、もっとも小さい野鳥です。名前の通り、多くはヨシ(アシ)の原に、時としてマコモやガマ類の繁茂する場所に生息する、明るい茶色系の色彩の地味なサギともいえます。湿原の面積が次第に狭まり、結果的に湿原に生えるアシやマコモの密集地帯が少なくなっていっている現状では、将来を極めて危ぶまれる野鳥でもあります。
日本には、アシが生い茂る春遅く、ちょうど梅雨の始まる前に東南アジアからやって来て、夏に繁殖し、秋10月頃に戻って行く、夏鳥です。繁殖分布は、日本列島だけではなく、中国沿海部、朝鮮半島に及びます。学名の sinensis とは中国のことです。英名でも Chinese が冠せられているように、西洋人はまず中国でこの鳥を見つけ出したのでしょう。古い和名で、蓬莱鷺(ほうらいさぎ)と呼ぶのも、中国からこの鳥が来るものと考えていたか、古い中国の絵画で最初にこのヨシゴイを日本人が学習したかのいずれかでしょう。
中国人も早くからヨシゴイを見つめていたようで、多くの漢字が当てられています。戳罕(クカン)、水胡盧(スイコロ)、旋目(センモク)などがそれです。現在では、「黄鷺」が台湾では学名として与えられているようです。
肉食性で、ヨシの原で可能な、様々な昆虫、両生類、爬虫類、魚類を餌とします。渡りの時を別にして、生息地では空高く飛ぶことはなく、低く葦原や、それに隣接した池や田圃の上を飛び、餌を探します。
餌を探すヨシゴイ |
ゴイサギやササゴイと異なり、じっと長時間一箇所にとどまり餌を待つということはあまりないようです。一旦葦原に降り立ちますと、まず枝の上の方に止まります。大きさの割りに極めて体重が軽いことが判ります。すばやく周りを見渡した後、するすると下のほうに降りていってしまいます。こうなりますともう見つけ出すのは非常に困難です。しかし大体30分程度で、また別の餌場を探して飛び立ちます。ヨシゴイの観察には、我慢が肝心のようです。頭頂部には、オスですと黒い斑、メスですと赤褐色の斑が入ります。一番上の写真の個体の頭頂部は黒く、オスであることが判ります。
トップの写真でもお判りのように、虹彩は黄色く良く目立ちます。また、長い喉には白地に薄い褐色の縦斑が入ります。頭上に外敵がいると感じられた際には、この喉を誇示し、アシの茎と勘違いさせる効果を狙っているようです。また背中の濃い褐色の部分も、あたかも枯れ葉が重なっているように見える効果があるとも言われています。
擬態するヨシゴイ |
飛び立つと、羽の先端部分が広く黒いことがよく判ります。下と、餌を探している写真をご覧になれば、翼の構造上、風切羽(初列及び次列風切)だけでなく、初列雨覆羽までもが黒いのです。ですから余計黒い部分が強調されて見えるのです。
飛び立つヨシゴイ |
また鳴き声は、「オーツ、オーツ」ともの悲しく聞こえます。ゴイサギの古名で、「凡悩鷺(ぼんのうさぎ)」と呼ばれることがあるのは、この鳴き声に由来するのではないでしょうか。ただ下の写真にように、鳴いている姿には、迫力に満ちた力強さが感じられます。
鳴くヨシゴイ |
ヨシゴイは、夏の季語。
湖(うみ)の風葭五位葭と吹かれゐる 東田綾子 |
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風吹いて葭と葭五位揺れにけり 峠素子 |
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葭五位の身を置く程の葭伸びず 渡辺夏船 |
夏の風物詩ともいえる、葭原のヨシゴイ。夜にも活動するようですが、早朝や夕暮れ時が私たちが探し出す良いチャンスといえます。お近くに葭原がありましたら、一度しばらく佇んでヨシゴイの登場を待ってみませんか。