英名、Japanese Trush (日本ツグミ)とあるように、主として日本でそれも山間部で繁殖する夏の鳥です。姿かたちからもツグミの仲間であることは一目瞭然ですが、つぐみの仲間の中では最も小さいのです。
タイトルの写真は、オス。全身が黒く嘴も黄色いので、クロウタドリとよく似ているように見受けられます。クロウタドリのオスが全身真っ黒であるのに対して、クロツグミのオスは、黒地に灰色がかっています。また腹部は白く、脇には三角黒斑がはいっています(クロウタドリは腹部も黒です)。更に、クロツグミの脚は黄色ですが、クロウタドリの脚は褐色味を帯びています。クロウタドリ、オスの写真(ハンブルグにて撮影)を下に載せますので比較下さい。クロウタドリは欧州では普通に見ることが出来る野鳥ですが、国内では非常にまれにしか観察されていません。
クロウタドリ・オス |
アガサ・クリスティ原作の、探偵エルキュール・ポワロが活躍する小説に、「二十四羽の黒鶫」と訳された作品があります。このタイトル自体は、マザーグースの「六ペンスの唄」の一節から採られたものですが、鳥類名的にはこれは誤訳です。
マザーグースの表現は、Four and twenty blackbirds で、これを日本の翻訳者が二十四羽の黒鶫と訳したのですが、欧州にいる Blackbird は、正式和名はクロウタドリなのです。ビートルズも採用したようにこのクロウタドリもクロツグミに負けずよく囀ることで有名です(ビートルズの唄のタイトル、Blackbirdは、ブラックバードと、訳すことなくそのまま日本では紹介されています)。正確には「二十四羽のクロウタドリ(黒歌鳥)もしくは、二十四羽のブラックバード」とすべきものだったのです。実際に、欧州にはクロツグミは棲息していません。マザークースの日本語翻訳者が間違えたものを、後年アガサ・クリスティの翻訳者が、恐らく何の疑いも持たずそのまま使い続けたのでしょう。面白いことに、日本語訳マザーグースの一部には、挿絵を書き直しているものがありますが、ほとんどがクロツグミを描いているのです(英語版はクロウタドリの絵です)。
クロツグミのメスは、オスと異なり頭部から背中は茶褐色で、喉から胸部、腹部にかけては白で、明瞭な黒褐色の斑が多く入っています。また、オスでは目立つ黄色のアイラインですが、メスではそれほど目立ちません。嘴は黄色ですが、若干褐色味を帯びています。下の写真をご参照下さい。
クロツグミ・メス |
クロツグミは良く囀ることで有名です。大変うれしいことに、このクロツグミのソングポスト(囀るポイント)は、木の最上部であることが多いのです。よく観察させてくれます。下の写真は、埼玉県県民の森にある高い木のてっぺんで囀っているところです。高い場所で囀ってくれる野鳥は、観察者にとっては大歓迎です。
クロツグミの囀り |
普通、キョキョキョと鳴きながら林の木陰を移動しますが、囀りは実に多彩で、時として他の鳥の鳴き声もその中に織り込むほどです。とても文字表記できません。下のサイトには、他の鳥の鳴き声のまねを含めた、実に多彩なクロツグミの囀りを紹介しています。
http://pikanakiusagi.web.fc2.com/songs/kurotsu.html
高村光太郎は、「クロツグミ」の詩のなかで、この微妙なさえずりをこう表現しています。
「ちょぴちょぴちょぴちょぴ、
ぴいひょう、ぴいひょう、
こっちおいで、こっちおいでこっちおいで
こひしいよう、こひしいよう、
ぴい。」
クロツグミは夏の季語。
黒つぐみききとめ蕨捨てて立つ 水原秋桜子
黒鶫鳴くや黒檜の峰おろし 足立 黙興
北原白秋は、ロマンティックな思いをクロツグミに託しています。
黒鶫野辺にさへずり唐辛子いまし花さく君はいずこに
残暑の厳しい今年の晩夏です。まだクロツグミは山に残っていることでしょう。囀りはもう止めているでしょうが、木々の根元で枯葉を飛ばしながら餌を探す姿が見えるかも知れません。